代替医療のトリック

Trick or Treatment?
 サイモン・シン、エツァート・エルンスト 著
 青木薫 訳
 

 サイモン・シンはケンブリッジ大学大学院にて素粒子物理学の博士号を取得、のち
にテレビ局BBCに就職しプロデューサーなどで活躍。現在、サイエンスジャーナリスト
として高い評価を受けている。

 エツァート・エルンストはドイツで物理学の博士号を取得したのち、ホメオパシーを
はじめ代替医療の研究を行う。



 この本では、さまざまな代替医療ついて信頼性の高い科学的なデータを用いて、その有効性を検討しています。 これによると、ほとんどの代替医療は有効と言えるだけのエビデンスに乏しいという結論となっています。 ここでは、本書に取り上げられたいくつかの代替医療について、内容を要約してみました。

 鍼

 1.気や経絡が実在することを示す科学的根拠はない。
 2.鍼の有効性を示す過去の臨床試験の多くは適切なプラセボ対照群を用いておらず、信頼するに足
   りない。
 3.質の高い系統的レビューでは、鍼にはプラセボを上回る効果が無いことが示された。ただし、いく
   つかの種類の痛みや吐き気には効く可能性がある。

 ホメオパシー

 ホメオパシーは、ある症状を治療するのに、同じような症状を引き起こす物質を高度に希釈して用いる治療。 (この高度に希釈されたものを砂糖で固めたものをレメディーと称する。) これについて、本文では次のように述べている。

 1.レメディーは高度に希釈されているので、元の成分はほとんど含まれていない。
 2.質の高い系統的レビューやメタ・アナリシスでは、プラセボを超える効果が無いことが示されている。

 カイロプラクティク

 1.カイロプラクティクで使われる「サブラクセーション」、「イネイト・インテリジェンス」という概念
   は科学的には立証できていない。
 2.カイロプラクティクは、腰痛に対しては理学療法と同程度の効果があるというデータが得られてい
   るが、その他の様々な疾患に対する有効性は立証されていない。
 3.頸椎のマニピュレーションは脳卒中を引き起こす危険性がある。(実際に死亡報告例がある。)

 ハーブ療法

 1.いくつかのハーブでは有効性が科学的に立証されているが、同じ目的に使われる通常の医薬品に
   比べて効果の優れるものはほとんど無い。
 2.ハーブのあるものは、他の医薬品と相互作用を及ぼして効果を弱めたり強めたりするので、服用
   している場合は必ず医師にその旨を伝えること。
 3.ハーブに限らず、自然の材料によるとされるものは、様々な物質(鉛・水銀・ヒ素など)で汚染され
   ていたり、ステロイドやワーファリンなどの薬品が混入されていたりすることがあるので、「自然」と
   いう言葉に安心してはいけない。

   (注)この著者は漢方薬もハーブ療法の一種と考えているようですが、実際には異なるものと言えます。
      漢方薬を使用する上での気・血・水などの概念は別として、様々な漢方薬が医療の場で使われて
      おり、少しずつエビデンスも蓄積されつつあります。漢方薬は代替医療ではありません。

      

その他の代替医療


 この本の巻末に付録があり、次のような代替医療について簡単に解説がしてあります。
 アーユルヴェーダ、アレクサンダー法、アロマセラピー、イヤーキャンドル、オステオパシー、
キレーションセラピー、クラニオサクラル・セラピー、クリスタルセラピー、結腸洗浄、催眠療法、
サプリメント、酸素療法、指圧、神経療法、人智療法、吸い玉療法、スピリチュアル・ヒーリング
デトックス、伝統中国医学、ナチュロパシー(自然療法)、バッチフラワー・レメディー、ヒル療法、風水
フェルデンクライス法、分子矯正医学、マグネットセラピー、マッサージ療法、瞑想、リフレクソロジー
リラクセーション、レイキ(霊気)

ここでは日本でもよく見かけるものについてエッセンスのみ記載しました。

アーユルヴェーダ
 容易には評価することのできない複雑な医療体系である。
  1.ヨガは心血管系の健康に役立つことが示されている。
  2.インド式マッサージ、ハーブ薬など多くの場合において効果があるという証拠は無い。

アレクサンダー法
 ほとんど研究されていないため、科学的根拠は決定的なものではないが、患者に積極的に取り組む
つもりがあり、経済的にも余裕があるなら、健康上のいくつかの問題には効果があるかもしれない。

アロマセラピー
 しばしばストレスを解消してくれるので、治療を受けたあとは心身ともによ気持ちの良い状態にな
れるだろう。アロマセラピーが、なんにせよ病気を治療できるという科学的根拠はない。

オステオパシー
 1.オステオパシーのモビリゼーションは、腰痛については通常医療と同じくらい効果がある(つ
   まり効果がない)(注)と考えるだけの十分な科学的根拠がある。
 2.オステオパスの技法は、一般にカイロプラクターのそれよりずっと穏やかなので、オステオパ
   シーで有害事象が起こる頻度は、カイロプラクティクよりもはるかに低い。

 (注)著者は「腰痛」については現代医学でも十分な治療ができないとみなしているようです。たしかに、
    「非特異的腰痛」についてはそのような認識が一般的です。


キレーションセラピー
 1.通常医療で用いられるキレーションの有効性に議論の余地はなく、命が助かることも多い。だが、
   代替医療で用いられるキレーションセラピーは、まったく異なる使われ方をしている。
 2.キレーションセラピーはすでに何度も検証されているが、臨床試験では有効性が示されていない。
   電解質減少による死亡など重大な有害事象が、キレーションセラピーと関連付けられている。

クラニオサクラル・セラピー(頭蓋オステオパシー)
 人の健康は、頭骨と仙骨の小さな動きに支配されているという考えだが、頭骨と仙骨は幼児期のうち
に融合して強い構造になる。たとえ骨と骨のあいだにわずかな動きがあるとしても、そのせいで人の健
康が大きく害されるとは考えにくい。

サプリメント
 有効性を証明しなくてもサプリメントを売ることができ、安全性について十分なデータがしめされていな
いことも多い。

酸素療法
 代替医療の酸素療法は有効性が示されていないばかりか、有害にもなりうる(注)。この療法は受けない
ようにしよう。

 (注)たしかに、ビタミンCやビタミンEなど、酸化を防ぐビタミンが加齢を防ぐといいながら、いっぽうでは
    体に余分な酸素を送り込もうとするのは矛盾していると思います。


指圧
 指圧に関する臨床試験はないに等しいが、通常のマッサージを上まわる効果があると考える理由は無い。

マグネットセラピー(磁気療法)
 最近おこなわれたメタ・アナリシスでは、鎮痛に対する磁石の利用を裏付ける結果は得られなかった。

マッサージ療法
 マッサージが一部の筋骨格系の症状、特に腰痛や、不安、憂鬱、便秘に有効であることについては有望
そうな科学的根拠が得られている。

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