「新型腰痛」という言葉を、私の患者さんから聞いたとき、思わず「えっ?」と
聞き返しました。「脳が原因だという・・・」という次に出てきた言葉から、「あ、
あれか。」とすぐに気がつきました。平成22年5月11日に「たけしのみんなの家
庭の医学」で特集していたとのことです。私は見ていませんが、様々な情報から
新型腰痛について要約すると次のようなものです。いつまでも、「新型」と呼ば
れることは無いと思いますが・・・。
@ 骨や椎間板が異常の場合で起こる腰痛は全体の15%で、残りの85%
は検査をしても原因がわからない。
A 原因のわからない腰痛の多くは、生活習慣、血行不良、運動不足、
ストレスなど普段の生活が原因であると推定されている。
B 痛みを長く我慢すると、腰の痛みの原因を取り除いても、脳が誤
作動を起こし、痛みが延々と続く。
C Bのように、さまざまな治療が効かなくなった腰痛を腰部慢性疼痛
という。
D 新型腰痛とは、腰部慢性疼痛のことをいう。
E 新型腰痛に対する最新治療として脊髄刺激法があり、有効である。
まず、「腰痛の85%は原因が不明である。」ということですが、これは「レントゲンや
MRIで調べても異常が無い」ということであって、症状をきちんと見ていけば多くの場合
原因は解ります。たとえ原因がわからなくても、「今、体に何が起こっているか」ということは
解るはずです。解らないというのは、患者さんをしっかりと診ていないからです。実際には
原因不明の腰痛の大部分が「筋肉の痛み」です。それは「筋肉の状態を定量的に評価する
検査法が無い」からです。検査をして目で見える形で結果を出さないと診断できないという
現代医学の欠陥が、「腰痛の85%は原因が不明」とういう事態をもたらしたものだと思います。
「痛みを長く我慢すると、腰の痛みの原因を取り除いても、脳が誤作動を起こし、痛みが
延々と続く。」このことはペインクリニックの分野では常識としてされています。その痛みを
取り除くために様々な神経ブロックが行われているわけです。
痛みの末梢(皮膚や筋肉など)から痛みの中枢(脳)まで、途中には痛みを伝達する経路が
あるわけですが、そのなかでどの部位で痛みをストップするかによって効果が違ってきます。
トリガーポイントブロックは最も末梢に働くもので、
硬膜外ブロックは末梢のすこし中枢側、
脊髄刺激法はそれよりさらに中枢に近い部分で働きます。どのブロックを用いるかは疼痛の原因
よっても異なるし、どれか一つで効果が無い場合は、様々なブロックを組み合わせる必要があり
ます。中枢に近い部分でブロックしたほうが有効とも限りません。一般的な腰痛については、多
くの場合トリガーポイントブロックだけでも十分疼痛は軽減できると思いますが、慢性化した場
合には効果の持続が短くなります。
ところで、なぜ腰部慢性疼痛のことを新型腰痛と呼んだのでしょうか? 別に新しいもの
ではないと思うのですが・・・。